女子大小路の名探偵

長良川温泉 十八楼

長良川の流れとともに
地域と重ねた160年

岐阜の老舗 十八楼

<秦>
朝、まず1時間温泉に入ってから仕事をするという、これまでにない、ぜいたくな経験をさせていただきました。客室から長良川を眺めると、昔の文豪になった気分ですね。気持ちが高まりました。
さて、今年は十八楼160周年の年。女将は街づくりに力を入れていますが、今回の小説も「地方創生」がキーワードです。岐阜の街に関して、どうお考えですか。

<伊藤>
新しい時代を迎えることができて、ありがたく思っています。岐阜は経済的にも農業や伝統工芸や飲食店など、地元の多様な産業に支えられています。観光は裾野が広く、さまざまな産業の総力戦。ですので、横のつながりをしっかりもって、長良川温泉が単独で旗振りするのではなく、みんなで「岐阜っていいところだよ」という仕掛けをつくっていきたいです。

<秦>
地方創生だとハートウオーミングなものが多いけれど、今回の小説はサスペンスで殺人事件も起こります。ですが十八楼では岐阜で暮らす人にとっての身近さや、この空間の特別感を演出したいですね。

<伊藤>
ありがたいことに、人生の節目にご利用いただく方が多いですね。「遺言で、法事は十八楼で」という言葉を何件もお聞きします。また、お子様が生まれたときに顔を見せにきてくださったりも。大切なときに、この街や十八楼を選んでいただけるのが、うれしいです。

<秦>
東京からやってきて、十八楼に足を踏み入れる。何の先入観もない状態ですが、いつも特別なものを感じます。それが160年の歴史の重みんなんだろうな。スタッフのみなさんも、十八楼で働くというプライドをおもちですよね。ここは特別な日に、特別なことをするために来る場所。新しい何かに挑戦するとき、勇気をもらうために来る場所にしたいです。これから先、十八楼がどうなっていくといいと考えていますか。

<伊藤>
長良川は昔からこの場所を流れています。この川が40万人都市・岐阜市に流れているんです。長良川を見ながら、みなさん色々なことに思いを馳せておいでです。かたまった心をときほぐすような宿でありたい。老舗ですが、どなたにとっても足を踏み入れやすい場所でありたいです。「長良川とともに、鵜飼とともに」と思っています。小説でも長良川を眺めながら姉弟が語る時間をもってくれたらいいですね。

<秦>
ストーリーのどこかでは、鵜飼も登場させたいです。その時は、鵜飼を船から見るのが良いか、宿から見るのが良いか、それとも向こう岸から船と十八楼を見るのが良いか…。どこから描写しても絵になりますね。今回は名古屋と岐阜が舞台です。込み入った名古屋と川の流れがある岐阜はいい対比になります。女子大小路は名古屋でも特殊な場所。エネルギッシュで一生懸命生きている人が多い。悠大な風景とのコントラストがいいですね。

<伊藤>
岐阜は住みやすい街にランクインしています。私自身3人の子どもを育てながら、「岐阜で良かった」と思っているので、そのあたりも書いてもらえるとうれしいな。

<秦>
東京在住ですが、岐阜と往復していると「豊かさってなんだろう」って心から感じます。人もお金も東京に流れるけれど、東京で豊かな暮らしをしているかというと、そうでもない。景色も時間も食事も、それこそ子どもたちがのびのびと育つかといったことも岐阜と比べてどうなんだろう。子どもが何を見て育つか、どんな空気を吸って成長するかという点で、岐阜は恵まれていますよね。

<伊藤>
自己実現したい方が多いなと思います。仕事をしながらも、休日はNPOに参加して街づくりをしたり、大企業をやめて岐阜に戻ってきて小さいお店を開いたり。そんな人たちのコミュニティもできています。岐阜で夢をかなえる人が多いですね。
地方創生に関しては、一人ひとりがどれだけ頑張っていても、1軒だけ飛びぬけていては意味がありません。観光は、その名のとおり「光」を「観る」産業です。光をみんなで磨いていきたい。そんな思いをもった「長良川温泉の若女将会」が平成17年にできました。「女将同士は仲が悪いのでは?」とか、「宿敵では?」なんて聞かれますけれど、本当にみんな仲がいいんです。一緒になって一つずつ自己実現していくことで、自信をもってお客さまを迎えられる。この地域があるからこそ、女将ができるなって思っています。

岐阜の伝統工芸である「岐阜うちわ」の職人を訪ねる。

 

十八楼ならではの場所として女将が挙げた、蔵を利用したレストラン。もともと長良川をくだってきた材木で建てられたもの。十八楼からも見える大木を目印に、船頭たちは筏をこいでいました。

<秦>
このテーブルも姉弟が話すのに、ちょうどいいな。バックに長良川があって。小説を書くときは、映画のように描写をイメージします。どこに、誰が、何時に座って…なんて考えながらカット割りを考えるんです。7階からの景色も素晴らしかったし。女将はどの場所、時間が好きですか。

<伊藤>
私もロビー奥の、この場所が好きですね。川が近くて、なんだか私までゆらゆら流れているような気持ちになります。夕暮れ時や、いまにも雨が降りそうなときのにおいも好きですね。明治時代の蔵を使った温泉浴室とレストランがあります。この街にあった本物の蔵を再利用したものです。こういった十八楼ならではの魅力を守っていきたいですね。

十八楼
岐阜県岐阜市湊町10 https://wakaba-sake.com