街の情緒や交流を発信し これからの日本のロールモデルに
日本人と外国人が手を取り合う
「女子大小路」のある街
左から秦建日子氏、名古屋市中区・柵木由美区長、
中広常務取締役・大島斉、FMC・バージ石原代表
対談日:2020年11月11日
<秦>
『女子大小路の名探偵』は、実際の女子大小路や、その周辺の名古屋の情景をなるべく忠実に描写するようにしています。読者の皆さんに、この街のことをリアルにイメージしていただきたくて。
<柵木>
実は、女子大小路というのは我々が子どものころは近づいてはいけないと言われた場所でした。「怖い場所」というイメージがついていましたね。
街づくりをするみなさんが必死になってイメージアップに努めて、いまも頑張ってくれています。これからは表舞台に出ていく、努力のときだと思っています。マイナスイメージから小説の舞台になり、注目される場所になるといいな。なんだかミステリアスで怖いんだけれど、ドキドキしてちょっとおもしろいよね、って言ってもらえるようになるのが楽しみです。
<大島>
小説が、まさに表舞台への扉ですね。
独特の情緒を残しながら、クリーンなイメージにしていこうという、街の皆さんの思いが伝わります。
バージさんオススメのフィリピン料理店「KAIBIGAN」でインタビュー
「KAIBIGAN」とはタガログ語で「友達」を意味します
<柵木>
中区は外国籍の人が多く、10人に一人は外国人。特にフィリピンからは2,000人近い人が暮らしています。出稼ぎにきて日本人と結婚し、子どもとともに日本社会の生活者になっています。日本とフィリピン、それぞれのコミュニティをつなげているのが、自身もフィリピンから仕事を求めて来日したバージ石原さんです。フィリピン人移住者センター(FMC)を設立して、DVやオーバーステイ、子どもの教育などを中心にした女性支援を続けています。
多文化共生の考えがうたわれるようになるなかで、外国人を受け入れる地域として、他に先んじて中区の行政も変化してきました。
<大島>
すべてを認め合う生き方が、日本でもこれから主流になります。新しい姿勢で共生できている事例ですね。バージさん、女子大小路が小説の舞台になりました。バージさんの活動やこの街について教えてください。
<バージ>
FMCはボランティア団体で、フィリピン人の女性グループを立ち上げたのが始まりです。集まって自己紹介などをしているうちに、オーバーステイやDVの問題を抱えていると打ち明けてくれるようになり、区役所に相談して解決に導いたりしていました。1998年にFMCを立ち上げ、ビザのこと、子どもの教育のこと、国籍のことなど、さまざまな情報を発信し支援しています。
<大島>
FMCを立ち上げて、この街は変わりましたか。
<バージ>
変わりました。日本や名古屋の社会のことを勉強するうちに、私たちももっと地域に参加しなくてはいけないと感じるようになり、他の街にも視察に行ったりしました。すると、区役所が町内会の人を紹介してくれ、ミーティングにも参加を始めました。池田公園の掃除をしたり、夏祭りやクリスマスツリーのデコレーションに参加したり。日本の社会は少し保守的なので、すぐには交流できませんでしたが、「何事も、やってみないと!」と継続してきました。イルミネーションは今年で19回目。今では、町内会の人から「バージさーん!」って街で声をかけてもらえるようになりましたよ。
17時になると池田公園のイルミネーションが点灯
<大島>
日本のコミュニティにどうやって入っていったんですか。
<バージ>
毎週木曜日に時間がある人が誘い合って池田公園を掃除したり、街にある落書きを消したり。そういう活動を継続して交流してきました。名古屋市や愛知県の多文化共生の取り組みが始まったのも、大きかったですね。
<柵木>
以前は姉妹都市との「国際交流」が主でしたが、2000年くらいから「多文化共生」の考え方が全国でも広がり、行政施策にも「外国人住民」という考え方ができました。その活動が、一気に関係を動かしましたね。
<バージ>
DVやオーバーステイ、子どもの教育環境といった「問題」だけでなくて、どうやって地域に参加するか考えるようになりました。日本社会のことがわかったら、私たちにとっても住みやすくなると思ったんです。
<大島>
FMC立ち上げ当初に比べると、街が非常に良い状態ですね。『女子大小路の名探偵』を通じて街にいろんな人に来てほしいと思っています。バージさんは、この街の良いところは、どこだと思いますか。
<バージ>
池田公園が好きですね。コミュニティの中心になっていて、声をかけてくれる人も多いです。
秦建日子氏がいくども宿泊し、物語が生まれるきっかげとなった
ホテルセントメインを背景に池田公園のモニュメント前で
<大島>
中区は「共生」がキーワードですね。そのために土台が整って、セーフラインまできましたね。
<柵木>
数年前に整った印象です。健康や命の保障が整い、次は日本の地域社会で、どう外国人が楽しみながら暮らしていくかという段階です。掃除や夏祭りに参加してくれるフィリピン人のみなさんがいるので、他の国のコミュニティも出てきやすくなりました。
<大島>
日本国内で日本人の人口が減っていく中、他の国の人を受け入れ共生するのは、今後の日本の「当たり前」になっていきます。最先端で中区がチャレンジしていますね。
<秦>
この街では、5人に1人が外国籍の方とうかがい、異国情緒に溢れるこの街の素敵な雰囲気にとても納得が行きます。実際、大夏が店の外に出たとき、最初に声をかけてくるのはフィリピンの女性です。この小説の主人公・広中大夏は、この女子大小路の街でずっと働いているので、彼には当たり前の知識として、この情報を持たせていかないといけませんね。
「KAIBIGAN」店長のロミオさんを囲んで
<大島>
ここから先、どのようになっていってほしいですか。
<バージ>
いままでFMCがしてきたことを続けてほしいですね。協力してきたことや連携してきたことなど、この街がコミュニティの中心となっていってほしいです。ふるさとのようになるといいな。
<大島>
女子大小路が、今後の日本のロールモデルになるといいですね。
<秦>
受け入れる側の立場である中区さんとしては、今後をどうしていきたいとお考えですか?
<柵木>
飲食店で成り立っている街ですので、オーナーのみなさんは、やはりテナントに入ってもらいたい。そのなかで外国料理の店も多いので、持続できるようにしたい。どの店もコロナ対策をバッチリしてもらうよう、多言語での周知・徹底に努めています。栄が大きくリニューアルしていくいま、異国情緒あふれる女子大小路が街に彩りと元気を与えていきたいですね。コロナですべてのイベントが中止になってしまいましたが、冬のイルミネーションだけは実施します。ワクワクすることを、みんなでしていきたいです。
<秦>
『女子大小路の名探偵』でも何かしら関連イベント的なことができると、盛り上がりますね。ぜひやってみたいですね。
<大島>
ますます、街を元気にするために頑張ります!外国人コミュニティの皆さんも、一緒になって盛り上げていきましょう。
『女子大小路の名探偵』ポスターを手にする柵木中区長