名古屋のエンタメをリードする存在に
「この街を訪れてみたい」
そう、思ってもらえる作品に
左から秦建日子氏、河村たかし名古屋市長、中広常務取締役・大島斉
<大島>
メディアに関わる一人として、作家・秦建日子さんのクリエーティビティや世界観を尊敬しています。「『NAGOYA FURIMO』など『地域みっちゃく生活情報誌®』で連載したらどうなるだろう」とご提案をいただき、2020年4月号から名古屋と岐阜を舞台にした小説を連載しています。舞台となる場をリアルに描いて、小説というツールで地域の活性化につなげたいとスタートしました。
新型コロナウイルスの影響で、名古屋のエンタメ業界も打撃を受けました。その面でも何かできることがないかと、名古屋・岐阜で活躍しているみなさんと一緒に朗読コンテンツを作り上げ、YouTubeで配信しています。6月には書籍化も決まっていますので、名古屋をもっともっと盛り上げたいと考えています。
<秦>
東海圏で映画を作っていたときの製作委員会が名古屋にありまして、女子大小路のまんなかにある池田公園の隣のセントメインというホテルにいつも泊まっていました。取材や打ち合わせを終えて後、夜の女子大小路を散歩するのがとても楽しかったんです。その時から、この刺激的な場所でサスペンスを作れたらとても素敵だろうなと思っていました。
地方創生をテーマにした映画を何本か監督しながら、映画も更に息長くじわじわと効果が続く企画ってなんだろうと考えて、小説から始めるということを思いつきました。地方創生を意識しつつ、実在の景色やお店、食べ物、名産品などを小説でじっくりまずは書いてみたらどうだろうと。そして、読者が「この物語の世界を自分でも旅行してみたいな」と思って貰えたらとても嬉しいなと。そこで中広の大島さんにご相談をして、地方創生の新たな形としての小説を、フリーマガジンで連載するという企画がスタートしました。フリーマガジンであれば、普通の新聞や雑誌の連載小説よりも、より広い層にリーチできるのではないかとも考えました。
<河村>
ありがたいことです。女子大小路のあたりには、ときどき足を運びます。実は、私のお袋が女子大小路西側の七曲町にあった料理店の娘でした。女子大小路のあたりは空襲が激しかったところで、私の祖母も空襲で亡くなりました。お袋は、「行きたくない」というほどつらい思いをしたようです。女子大小路では、その後、地蔵が見つかっていて、これは戦争で亡くなった子どもを供養するために置かれたようです。いま池田公園の周辺に暮らす人たちが、女子大地蔵祭をして供養してくれています。こういった話は、外国の方も興味をもってくれますよ。
<大島>
名古屋も戦争ではつらい思いをしました。女子大小路は特に、そういう歴史があるんですね。市長から見る女子大小路の魅力は、どんなところでしょう。
<河村>
名古屋は、わりと保守的なところがあります。それでも女子大小路は外国人を受け入れるなど、多様性があっておもしろいですね。
名古屋港の貿易黒字は7兆円以上に上りますが、その輸出先である国からも多くの人が来日しています。そんなみなさんを大切にしていきたいですね。
木曽のヒノキが川を下って名古屋港まで運ばれたため、名古屋は木工で栄えました。その技術を使って豊田自動織機が設立し、現在のトヨタ自動車につながります。また日本一おいしいと言われる名古屋の水も、たどれば木曽から流れてきています。産業の歴史も悲しみの歴史も伝え、さらに文化・芸術・エンターテインメントも盛り上げたい。人の喜び、悲しみといった部分を表現していきたいです。
<大島>
今回の『女子大小路の名探偵』が、まさにそれです。エンタメの力で名古屋・女子大小路にスポットをあてて活性化できないかと考えています。最近の女子大小路のおすすめポイントはありますか。
<河村>
クラシック専門の宗次ホールですね。設立者である宗次德二さん自身に、ストーリーがあります。寒くなっても玄関で宗次さんが「いらっしゃいませ」と挨拶し、公演後にも「ありがとう」と見送ってくださる。そういう温かさがあるんです。
国の重要文化財にも指定されている市役所の前で
<大島>
市長は今後、女子大小路にはどんな発展を望みますか。
<河村>
東京の赤坂のような街になるといいですね。猥雑性を残しながら、独特の雰囲気であってほしい。
<大島>
独特な雰囲気に人が集まり、そこで文化が生まれます。熱い議論が繰り広げられ、未来を語る人も出てきますね。女子大小路はそういう意味で新しいものに囲まれた、あの街にしかないオリジナル性を感じます。
<河村>
もっとエンタメが盛り上がってほしいですね。お笑いなどもいいと思います。
<秦>
私はもともと舞台の演出がキャリアのスタートなんです。女子大小路という街の雰囲気は、お笑いや演劇などのステージを使うエンタメとも相性が良いと思います。『女子大小路の名探偵』がさらに盛り上がってきたら、ぜひ舞台バージョンもやってみたいですね。この小説の世界がより立体的になって面白そうです。
<河村>
名古屋は救急車を呼んでから病院に到着するまでの時間が日本一短い。その前は、小路の多い京都が一番だったんですよ。狭い小道があっても、街の安全は維持できます。そういう場所があると、風情も出ますよね。秦さんが、はじめて名古屋に来たときは、どんな印象でしたか。
<秦>
最初は少し緊張しました。東京者からすると「名古屋は異文化圏」的な思い込みがありました。でも、実際は、素晴らしい歴史と文化があり、豊かな自然もあり、食事もとても美味しくて最高の街でした。今はコロナによって東京一極集中が弱まってきた感じがしますし、東京を経由せずに世界に出ていくのがこれからの若い人の成功のポイントなのかもしれません。その足がかりとしての企画をいつか自分が作れたらと願っています。
<大島・河村>
それをぜひ名古屋で!
<河村>
秦さんには、ぜひ人間臭い作品を作ってほしいです。産業面では伊勢湾沿岸で圧倒的に日本経済をけん引しています。あとはヒューマニズムの面。泣きや笑いをもっと出していきたい。柳橋市場などの、美味しいものでも盛り上げたいですね。また名古屋は空が広くて夜景がきれいと言われます。そんな場面もぜひ紹介してほしい。
<秦>
市長のお話には、小説にそのまま載せたい素敵な言葉がたくさんありますね。今日のお話を参考にさせていただき、『女子大小路の名探偵』をより楽しめる作品にしていきたいと思います。ちなみに、今はちょうど連載が折り返したあたりです。最初に事件が起こるのがコメダ珈琲店。オアシス21もテレビ塔も最初から小説に登場しています。
<大島>
市長はいろんな施策で名古屋を盛り上げていますが、ぜひ『女子大小路の名探偵』のコンテンツも活用してください。
<河村>
小説が好きで、芥川龍之介のファン。『奉教人の死』という作品の耽美的なところに惹かれました。
<大島>
小説は、読んだ人がさまざまなイメージをします。女子大小路という街をイメージしてもらえるようにしたいですね。
<秦>
東京の友人に「女子大小路」と通りの名前を言うと、それだけで旅情をそそられるようです。書籍化して全国に広がったときに、新しい展開があると更に嬉しいですね。
<河村>
城郭として国宝一号の名古屋城の木造化を実現して、大きな盛り上がりのきっかけにしたい。世界中見ても財産で、名古屋はやっぱりお城ですよ。実際の図面が残っているんですから。これをきっかけにして、道路だけではない名古屋を見てもらいたい。
<大島>
文化や芸術にご関心の高い市長と一緒に、盛り上げていきたいです。
<河村>
やっぱり、エンタメのように遊びがないとね。
<秦>
エンタメは、コロナ禍で一時は「不要不急」と言われることも多かったですが、やはり無いと困るものだと思っています。微力ではありますが、ぼくもエンタメの力で、女子大小路、そして名古屋の街を一層盛り上げられるよう頑張りたいと思います。
『女子大小路の名探偵』ポスターを手にする河村市長。
『NAGOYA FURIMO』公式キャラクター・エビフリモちゃんも一緒に取材へ